「何から教えよう」で固まるのは、教える側の準備不足ではなく構造の問題
新人を受け入れた瞬間に固まるのは、自分の準備不足だと感じる方が多いです。「マニュアルを整えていなかった」「OJT計画書を書いておけば良かった」と反省します。でも、私の感覚では、ここは反省してもあまり効きません。
ディレクター業務というのは、もともと言語化が難しい性質を持っています。クライアントの真意を引き出して、デザイナーとエンジニアの間で交通整理をして、納期と品質と予算を同時に動かす。マニュアルにすると100ページくらい書けるけど、書いた瞬間に陳腐化します。案件の性質が変わるごとに動き方が変わるからです。
WebNAUTさんの新人ディレクター向け記事でも、「制作フェーズごとに見るべきポイントが変わる」「フェーズ単位で押さえる」ことが強調されています。フェーズが変わると、見るものも、声をかける相手も、判断の軸も変わります。これを最初に全部教えても、新人は吸収しきれません。
つまり、新人OJTの設計は「すべてを教える」より、「3か月でここまでを自分で動かせるようになる」という到達点を切り取って、そこに必要な動作だけを渡すことに尽きます。
新人ディレクターが1年目につまずく、よくある4パターン
私が見てきた範囲で、新人が最初の3か月でハマる場所は、だいたい4つに集約されます。
パターン1:聞きたいことを溜めて、聞くタイミングを逃す
入って2週間くらいで、新人の手元には「先輩に聞きたいことリスト」が溜まり始めます。最初は遠慮して、まとめて聞こうとして、そのうち忙しそうな先輩のスキを見計らえなくなって、結局自分で判断して動いて、後で「なんでそうしたの」と詰められます。
これは新人の性格の問題ではなく、聞く動線が用意されていないことが原因です。「30分ごとにSlackで雑談しよう」と言っても、新人側からは話しかけにくいものです。教える側が「これは即聞いていい」「これは溜めていい」の線引きを最初に示しておかないと、自然と詰みます。
パターン2:議事録は書いているのに、決定事項が動かない
新人ディレクターが最初に任される仕事のひとつが議事録です。Notionなりドキュメントなりに会議の発言を時系列で書いて、リンクをSlackで共有する。これでOKだと思っている新人は多いです。
ところが、議事録というのは「何が決まったか」「次に誰が動くか」が分離されていないと、ただの記録物になります。決定事項が議事録の中に埋まっていて、誰のタスクになったかが書かれていない状態は、私が新人を見ていてもっとも多く修正している箇所です。
パターン3:スケジュールを「足し算」で引く
「キックオフが4/10、デザイン1週間、コーディング2週間、検証1週間で、納品5/15くらいですね」——これ、新人ディレクターのよくあるスケジューリングです。問題は、足し算で引いていることです。
実務はクライアント側のレスポンスが1週間止まったり、社長確認で巻き戻ったり、別案件と被って外注のスケジュールが取れなかったりします。納期から逆算して、各フェーズに「クライアント待ち時間」と「修正リードタイム」を最初に確保する癖を、新人はだいたい持っていません。
パターン4:自分のタスクと案件のタスクが混ざる
新人ディレクターは、最初は自分のタスク(議事録書く、見積書を作る、確認のメール書く)が多いです。そのうち案件全体のタスク(デザイナーへの指示、エンジニアへの依頼、クライアントへの確認)が増えてきます。ここで多くの新人が、自分の to do リストに全部混ぜて持とうとします。
混ぜると、案件単位の進捗が自分の頭の中でしか見えなくなります。チーム側からは「あの案件いま何が止まってるの」が分からないし、新人本人も、いざ休んだときに引き継ぎが回りません。タスクは「自分のもの」と「案件のもの」を物理的に別の場所に置く設計を、3か月以内に渡しておきたいです。
最初の3か月で渡しておきたい、進行管理の7つの基本動作
つまずきパターンが見えると、教える側がやることも見えてきます。私が今のチームで新人OJTに組み込んでいる動作は、7つです。順番にも意味があります。
1. 議事録のフォーマットを固定する
最初に渡すのは議事録のテンプレです。発言の時系列は別ファイル、議事録には次の3ブロックだけを書かせます。
- 決定事項(次に変更しない結論)
- タスク(誰が/いつまでに/何をやるか)
- 持ち帰り・確認事項(次回までに答えを出す質問)
このフォーマットは、私のチームでは社内Wikiに固定して、新人の議事録は必ずこの順で書いてもらいます。フォーマットを縛ると、書く側も読む側もラクになります。
2. クライアントとの「議事録共有」を即日の習慣にする
会議当日のうちに、議事録をクライアントにも投げます。これもアライドアーキテクツのブログで「打ち合わせの後はその日のうちに議事録を共有することが大事」と書かれている通りで、本当に翌日に持ち越すと記憶が薄れます。
私のチームでは「会議後60分以内にドラフトを送る」を新人の目標として渡しています。完璧に整っていなくていいので、まず投げる。クライアント側で「あ、それ言ってないです」が出てきても、その日のうちに修正できれば認識ズレは小さく済みます。
3. スケジュールは納期からの逆算で引く
新人にスケジュールを引かせるとき、私はいったん納期だけを書かせます。そこから1週間刻みで遡って、「クライアントの最終確認はここ」「デザインの社長確認はここ」とマイルストーンを置きます。残った時間に、各フェーズを押し込みます。
これだけで、足し算で引いていたときに比べて、納期間際の駆け込み修正が目に見えて減ります。ガントチャートを使うのもこの段階からです。私自身、新人時代にネクストページさんのブログに書かれていた「最初にやったこと9項目」を読んで、ガントの読み方を独学で覚えた口です。今はもっと整った教材がたくさんありますが、教える側がそばで「なぜここに余白を取るか」を口頭で説明できることのほうが効きます。
4. 確認事項のチェックリストを案件ごとに持つ
キックオフ時に確認しておくべき項目は、案件のジャンルが変わってもだいたい同じです。納品形態、著作権の扱い、ドメインの取得元、サーバーの所有者、CMSの種類、ステージング環境の用意、定例の頻度、請求書の宛先と支払い条件。
私のチームでは、これを20項目くらいのチェックリストにして、新人にはキックオフ前日に必ず確認させます。最初は読み上げるだけでもいいです。やっていると、なぜこの項目を聞くのかが少しずつ分かってきます。
5. 課題(タスク)を「人が一日で終わる粒度」に分解する
新人が出してくるタスクは、たいてい粒度が大きすぎます。「デザイン制作」とか「コーディング」とか、それは案件ですらありません。私は新人に「タスクを書くときは、誰かが一日で終わると感じる大きさまで割ってください」と言っています。
このルールは、結果的に新人のスケジュール感覚も鍛えます。「コーディング」と書いている間は、それが3日かかるか1週間かかるか自分でも分かっていません。「TOPページHTML/CSS実装」「下層ページHTML/CSS実装」「フォーム実装」「JS動作実装」と4つに割ると、それぞれが何日かかるかを推測できるようになります。
6. 「あとで対応」の使い分けを覚える
新人ディレクターが手詰まりになるのは、「今すぐやるべきこと」と「忘れたくないけど今じゃないこと」が混ざるからです。両方を同じto doリストに入れると、リストが膨張して見るのが嫌になります。
私のチームでは、「今日/今週/あとで」の3階層にタスクを分けて持つようにしてもらっています。「あとで対応」の引き出しがあるだけで、目の前のリストが減って、判断疲れが減ります。
7. 振り返りを「個人ノート」ではなく「案件のログ」に書く
新人は学んだことを個人ノートに溜めがちです。これだと、本人が辞めたときにナレッジが消えます。そして本人にとっても、半年前のノートを開き直すことはまずありません。
私は新人に、案件単位で振り返りを書く形にしてもらっています。「この案件で詰まったこと」「次回も同じ案件が来たら何を変えるか」を、案件のページに残します。本人にとっては書く場所が固定されて迷わないし、チームにとっては次の似た案件の参考になります。
「教える」が個人技にならないための仕組み
ここまで7つの動作を挙げましたが、これを口頭ですべて伝えると、教える側のディレクターが消耗します。新人2人目あたりで「もう同じ説明を3回はしてる」と気づきます。私はここで、教える側を仕組みで支える必要があると痛感しました。
具体的には、議事録テンプレ・確認事項チェックリスト・案件振り返りテンプレを社内のナレッジに置いて、新人がいつでも参照できるようにしました。「テンプレを開く動線」を最初に渡してしまえば、毎回口頭で説明する必要がなくなります。
それから、新人のタスクをチーム全員が見える場所で動かしてもらうこと。新人が個人のメモ帳でタスク管理していると、何に詰まっているかが見えません。チームのボードに混ぜると、先輩から「これ詰まってない?」と声をかけやすくなります。
最後に、新人専用の「質問チャンネル」を置いて、即聞いていい話と溜めていい話の線引きを最初に共有しました。「クライアントから連絡が来た」「外注からの納品物のチェックで判断に迷う」みたいなのは即、です。「進行のコツ」「文書のフォーマットの話」みたいなのは、週次の振り返りでまとめて聞いてもらいます。これだけで、新人が抱え込んでミスする回数が、肌感で半分くらいになります。
札幌のアートバイブスさんの新人ディレクター記事でも、Webディレクションの基礎は座学だけでは身につかないと書かれていて、実務とテンプレ整備の両輪で進めるのが現実解です。教える側が「自分の頭の中にしかない暗黙知」を、まずテンプレと動線に外出しすることが、最初の一歩です。
LOGLIKEを新人OJTで使うとどうなるか
ここから少しLOGLIKEの話に踏み込みます。新人OJTの設計とプロジェクト管理ツールは、思っているより密接につながっています。
LOGLIKEにはナレッジベースがあって、案件の中にも、案件を横断する社内Wikiの位置にも、ドキュメントを置けます。私のチームでは、議事録テンプレやキックオフ確認チェックリストを社内Wikiに置いて、各案件の振り返りは案件のナレッジに書く運用にしています。新人は「自分が書いたメモ」と「みんなのテンプレ」を別の場所で迷わずに扱えます。
コメント・メンション機能は、新人と先輩の会話を案件のタスクに紐付けて残せる場所として効きます。Slackでのやりとりは流れて消えますが、課題に貼り付いたコメントは半年後にも追えます。新人の「ここどう考えたらいいですか?」と先輩の「私はこう考えた」が、ちゃんと案件のログに残るのは、引き継ぎや次の似た案件のときに効いてきます。
ガントチャートは、新人にスケジュールの逆算を体で覚えさせるのに、いちばん早い道具です。納期からカードを並べていって、各フェーズに余白を取った状態を視覚化できます。新人の段階で「ガントを見せながら話す」習慣をつけておくと、その後クライアントとの認識合わせもラクになります。これは口で「逆算で引いて」と言うより、ガントの画面を一度一緒に引いて見せる方が、たぶん10倍速く覚えてもらえます。
「あとで対応」は、新人の「今日/今週/あとで」の3階層運用にそのまま乗ります。リスト膨張を抑える受け皿としての位置づけです。
AI予告通知は、新人の締切感覚を補正する道具として地味に効きます。遅延リスクを予測して事前に通知してくれるので、「気づいたら明日納期」が減ります。最初の3か月は、新人の体内時計がまだ案件のリズムに合っていない時期なので、外側からの予告が素直に助かります。
CSV一括インポートは、新人配属のタイミングで過去の案件データを一気に取り込むときに使えます。スプレッドシートで管理していた案件履歴を、案件・課題・顧客の3階層でまとめて入れられるので、新人が「うちのチームが過去どんな案件をやってきたか」を一覧できる土台ができます。
LOGLIKE全体としては、案件と紐付かないナレッジは溜めないという思想です。新人に渡すテンプレも、振り返りも、過去案件の検索も、すべて案件を軸に動きます。新人にとっては「何かあったらまず案件のページを開く」が固定動作になるので、覚えるべき動線が少なくて済みます。
まとめ:3か月で渡すのは「動作」と「動線」、知識は後からついてくる
結局のところ、3か月で新人に渡せるのは、動作と動線だけです。議事録の書き方、スケジュールの引き方、テンプレの開き方、質問を投げる場所。知識の方は、こちらが教えなくても案件の中で勝手についてきます。むしろ先に動作を渡しておかないと、知識が入る器が育ちません。
教える側が一番つらいのは、3人目の新人に同じ説明をする瞬間です。ここを仕組みで吸収できるかどうかで、新人受け入れが「年に一度の重い行事」になるか、「毎年自然に回るプロセス」になるかが分かれます。テンプレを整え、案件のナレッジに記録を残し、新人が安心して質問できる動線を作る——この3つを先に整えてから新人を迎えると、教える側の体力もずいぶん残ります。
LOGLIKEはフリープランから試せます。料金や機能一覧をまとめているので、新人配属の前後にツール周りを見直したい方は覗いてみてください。配属の時期は、チーム全体の道具立てを並べ替えるにも案外いい区切りになります。
