特定の人にだけ案件が集中して、その人が倒れたら全部止まる——稼働の偏りを「個人の頑張り」で埋めない案件アサインの設計

数年前、うちのエース格のディレクターが一週間入院しました。本人の体調の問題で、本当に突然のことでした。 困ったのは、彼が抜けた瞬間に4本の案件が同時に止まったことです。進捗はどれも頭の中にあって、クライアントとの細かい握りもチャットの彼の発言を遡らないと分からない。引き継ぎ資料なんてあるわけがなく、残ったメンバーで手分けして彼のSlackとメールを読み解くところから始めました。結局その一週間、会社の生産性は体感で半分以下に落ちました。彼が悪いわけではありません。むしろ彼は会社を支えてくれていた。問題は、支えられている状態を私たちが「強さ」だと勘違いしていたことです。 この記事は、5〜50名規模の制作会社・デザイン事務所・広告代理店・受託開発チームで、人の差配に責任を持っている経営者やマネージャーに向けて書きます。特定の人に案件が寄っていく、毎月だれを何に張り付けるかを勘で決めている、そのことにうっすら不安を感じている——そういう方に読んでほしいです。私自身、LOGLIKEというプロジェクト管理ツールを作る会社の代表として、自社の差配でもユーザー企業の現場でも、この問題を何度も見てきました。きれいな処方箋は出せませんが、今考えていることを正直に書きます。

特定の人にだけ案件が集中して、その人が倒れたら全部止まる——稼働の偏りを「個人の頑張り」で埋めない案件アサインの設計

「あの人なら回せる」が、偏りの正体です

アサインの偏りは、悪意や怠慢から生まれるわけではありません。むしろ善意と合理性から生まれます。

新しい案件が来たとき、差配する側の頭に最初に浮かぶのは「これは誰なら安心して任せられるか」です。難しい案件、面倒なクライアント、急ぎの仕事——リスクが高いほど、実績のある人に寄せたくなります。失敗したくないし、説明する手間も省ける。「あの人なら回せる」という判断は、その瞬間だけ見れば完全に正しいんです。

ところがこの判断を毎回繰り返すと、できる人のところにだけ案件が積み上がっていきます。できる人はさらに経験を積んで、もっとできるようになる。差配する側はますますその人に頼る。一方、任されなかった人には難しい仕事の経験が回ってこないので、いつまでも「安心して任せられる人」になれません。偏りは雪だるま式に育ちます。気づいたときには、特定の二、三人がいないと会社が回らない構造ができあがっている。

そして厄介なのは、この状態が数字の上では好調に見えることです。エースは高稼働で売上を立てているし、案件も次々こなしている。経営者からすると、優秀な人材が活躍してくれている理想的な状態に見えてしまうんです。崩壊の予兆は、その人が倒れるか辞めるまで表に出てきません。

稼働率を100%まで埋めにいくと、組織はむしろ脆くなります

ここで多くの会社が陥るのが、「稼働の偏りをなくそう」と考えたときに、手が空いている人の稼働率を上げる方向に走ってしまうことです。全員が100%働いていれば無駄がない、という発想ですね。

正直なところ、これは逆効果になることが多いです。全員が常にフル稼働している組織は、効率的に見えて、実際には些細なトラブルで全体が崩れる極めて脆い組織です。誰かが体調を崩す、クライアントから急な差し込みが来る、見積もりが甘くて工数が膨らむ——案件の現場では日常茶飯事ですが、全員が100%だと、この一つを吸収する余白がどこにもありません。一人の遅れが玉突きで全体に波及します。

リソース管理の世界では、配置時の稼働率は80%程度を目安にするのがベストプラクティスだと言われています。残りの20%は、突発対応や会議、後輩のフォロー、ナレッジの整理に充てるバッファです。一見すると20%遊ばせているように見えますが、この余白こそが、不測の事態を吸収してくれます。

プロジェクトマネジメントの文脈でも、「いかにメンバーに空きを作らせないか」という発想そのものがアンチパターンだと指摘されています。稼働率0.5の時期があると「空いている、もっと詰められる」と考えてしまう。その思考が、結局は組織を限界まで張り詰めさせて、折れやすくする。私もかつては「空き=無駄」だと思っていた側なので、これはなかなか手放せない感覚でした。でも、エースが倒れたあの一週間を経て、考えを改めました。余白は無駄ではなく、保険です。

なぜ偏りは「見えない」のか

偏りを直そうにも、まず偏っていること自体が見えていない会社がほとんどです。私の会社もそうでした。理由は大きく三つあります。

一つは、誰がどの案件を持っているかが、差配する人の頭の中にしかないこと。聞けば答えられるけれど、一覧にはなっていない。だから「今、彼に何本乗っているんだっけ」を即答できる人が社内に一人しかいない、という状態になります。その一人が、たいてい一番忙しい。

二つ目は、スキルが可視化されていないこと。「この人はこれが得意」という情報が、長く一緒に働いている人の経験則としてしか存在しません。新しく入った人や、別部署の人の得意分野は分からないので、結局いつもの顔ぶれに寄せてしまう。属人的なアサイン判断は、判断する人が不在になった瞬間に止まります。スキルとアサイン情報をシステムに集約して誰でも参照できる状態にすることが、属人化を防ぐ最も効果のある手段だと整理されているのは、まさにこの裏返しです。

三つ目が地味に厄介で、予定と実績がつながっていないことです。アサインの段階では「彼に2割」と決めても、実際には差し込みが入って4割になっている。でも計画は2割のまま更新されないので、台帳の上では余裕があるように見える。現場の実感と帳簿が食い違ったまま、次の案件を乗せてしまう。

偏りは「設計」で散らせます

では具体的にどうするか。根性論ではない方法を、自分が試して効いたものから書きます。

スキルの見える化は、立派なスキルマップを作る必要はありません。私の会社では、案件のタイプ(コーポレートサイト、LP、運用、開発寄り、など)ごとに「メイン張れる人/サブで入れる人/今は学習中の人」を分けた、雑な一覧から始めました。これだけでも、「この案件、いつものAさんじゃなくてBさんをメインに、Aさんがサブで見る」という配り方が選べるようになります。育てたい人をあえてリスクの低い案件のメインに置く、という判断も初めてできました。

一人に寄せない配り方は、意識しないと続きません。私が今やっているのは、案件をアサインするときに「この人が一週間消えても回るか」を一度だけ自問することです。回らないなら、その時点でサブを一人つける。コストは増えますが、エースが倒れて一週間ロスする確率と天秤にかければ、安い保険です。それと、おいしい案件・成長できる案件をエースが総取りしない、という線引きも経営側の仕事だと思っています。放っておくと自然に偏るので。

そして余白を先に確保することです。新しい案件の話が来てから「誰か空いてる人いる?」と探すと、たいてい一番都合よく空いて見える人に乗せてしまいます。そうではなく、各人の稼働を最初から8割で見積もっておく。残り2割は突発と育成のための枠として、案件で埋めません。埋まっていない枠を見て不安になる時期もありますが、その不安に負けて詰め込むと、最初の脆い組織に逆戻りします。

ツールの率直な話——専用ツールと汎用ツールの間

ここで道具の話をします。リソース管理や工数管理の専用ツールは、2026年時点でかなり充実しています。ただ、どれも万能ではないので、正直に整理します。

Co-Assignは、まさにアサインとリソースの可視化に特化していて、誰がどれだけ埋まっているかを直感的に見られます。アサインの偏りそのものに向き合いたいなら、専用ツールだけあって強いです。クラウドログやPaceは工数管理寄りで、稼働の実績を日報ベースで積み上げて、案件ごとの採算まで見えるのが持ち味です。稼働率を厳密に数字で握りたい会社には向いています。Lychee Redmineはガントとリソース管理を両立していて、開発寄りのチームに根強い人気があります。

一方で、これらの専用ツールは「リソースや工数の管理」が主役なので、案件そのものの進行、デザインの校正、クライアントとのやりとり、請求といった日々の業務は、別のツールで回すことになります。AsanaやBacklogのような汎用プロジェクト管理ツールはその逆で、進行管理は得意ですが、稼働の偏りを正面から見せる機能は弱いです。結局、どこに軸足を置くかの問題で、稼働率を1%単位で精緻に管理したいなら専用ツール一択です。これは正直に書いておきます。

AIによるアサイン最適化は、どこまで信じていいか

2026年に入って、AIがスキルと稼働状況を分析して最適なアサインを提案する、という機能が各社から出てきました。AIによるプロジェクト管理の市場は、2026年の41億ドル規模から年率15%超で伸びていくと予測されていて、リソース最適化と工数予測はその中心テーマです。期待したくなる気持ちは分かります。差配は神経を使う仕事なので、AIが「この案件はBさんが最適です」と出してくれたら、どれだけ楽か。

私の見立てを率直に言うと、使える部分と、任せると痛い目を見る部分がはっきり分かれます。

使えるのは、事実の整理です。誰に何本乗っていて、過去にどのタイプの案件を何件こなしたか、締切がいつ重なるか——こういう客観的な情報を突き合わせて「この週、Aさんに負荷が寄っています」と教えてくれるのは、人間が台帳を睨むより速くて正確です。工数予測も、過去の似た案件の実績があれば、勘よりはマシな見積もりを出してきます。

任せると危ないのは、その先の判断です。AIは「Bさんは稼働に空きがあり、スキルも合致」とは言えても、「でもBさんは今しんどい時期で、ここで重い案件を乗せたら辞めてしまう」とか「この案件はあえて育てたいCさんに任せたい」といった事情は分かりません。クライアントとの相性、本人のモチベーション、育成の意図——アサインで一番大事な部分は、たいてい数字に出ない領域にあります。AIの提案を「事実の叩き台」として受け取るのはいいですが、「最適解」として鵜呑みにすると、人を駒として配置する冷たい運用に流れます。判断の材料を整えるのがAIの仕事で、判断そのものは人間が握ります。ここは譲らないほうがいいと思っています。

LOGLIKEで偏りの兆候を拾うなら

最後に自社の話をします。先に正直に書いておくと、LOGLIKEは稼働率を自動計算したり工数原価を積み上げたりする専用のリソース管理ツールではありません。「Aさんの今週の稼働率は92%です」と数字で出す機能を期待しているなら、先に挙げた専用ツールのほうが向いています。そこは等距離に褒めても仕方ないので、はっきりさせておきます。

LOGLIKEが効くのは、その手前の「偏りの兆候に気づく」段階です。案件・タスク・校正・やりとりがすべて案件単位でつながっているので、ダッシュボードで全案件の進捗を横断して見ると、特定の人の担当案件だけが赤や黄色に染まっている、という偏りが視覚的に浮かび上がります。誰がどの工程で何を抱えているかが頭の中ではなく画面の上にあるので、「彼に何本乗っているか即答できるのが一人だけ」という属人化から抜け出せます。

ガントチャートを複数案件で縦に並べれば、同じ人の締切が一週間に集中しているのも一目で分かります。これは外部共有もできるので、クライアントに「この時期は立て込んでいます」と無理なく伝える材料にもなります。締切前の詰まりについては、AI予告通知が予兆を拾ってくれるので、人間が全案件を見張らなくても、危ない兆候が向こうから上がってきます。そして持ち越したタスクは「あとで対応」が受け止めるので、忙しい人のタスクがチャットの底に沈んで消える事故が減ります。

要するに、稼働率を厳密に管理する道具ではなく、偏りに早く気づいて配り直すための土台です。LOGLIKEがどんな機能でこれを支えているかは、サービス紹介ページにひととおりまとまっています。

まとめ:偏りは個人の問題ではなく、配り方の設計の問題

エースが倒れたあの一週間で、私が一番反省したのは、彼に頼りきっていた状態を「彼が優秀だから」で片付けていたことでした。優秀なのは本当です。でも、優秀な人に寄せ続けたのは差配する側の設計であって、彼の責任ではない。

稼働の偏りは、誰かの頑張りや我慢で埋めるものではありません。スキルを見える化して、一人に寄せない配り方を選んで、余白を先に確保する——これは個人の根性ではなく、経営とマネジメントの設計の仕事です。AIは事実の整理を手伝ってくれますが、誰をどう育て、誰を守るかの判断までは肩代わりしてくれません。

まず一度、自社の案件を全部並べて、「この人が一週間消えたら、いくつ止まるか」を数えてみてください。その数が、今の組織の脆さです。偏りが見えれば、配り直しは始められます。

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