「案件は回っているのに、月末の数字が合わない」現象
代理店の現場にいると、「案件は回っている」という言葉を一日に何度も聞きます。ディレクターが「あの案件、回ってます」と言うとき、本人の頭の中では確かに進捗が見えています。クライアントから次のクリエイティブ案の依頼が来て、制作チームに発注して、媒体担当に出稿スケジュールを共有して、運用が始まって、レポートを返している。一連の流れは止まっていません。
ただ、これは「進行が止まっていない」だけで、「数字が把握できている」とはイコールではないんです。
私が代理店で痛い目を見た例を一つ書きます。あるクライアントの大型キャンペーンで、媒体費が想定より100万円ほど膨らみました。これ自体はクライアント承認の上での増額だったので問題ありません。問題は、その増額に紐づいて発生した制作物の追加発注分が、外注先への支払いタイミングと請求タイミングがズレた結果、3カ月後に「あれ、この案件って黒字だったよね?」と確認したときに、実際は薄利だった、ということが判明したことです。
何が起きていたかというと、媒体担当のスプレッドシートには媒体費の数字が、制作担当のスプレッドシートには制作費の数字が、それぞれ正しく入っていました。でも、両方を案件IDで突合して粗利を計算する仕組みがどこにもなかったんです。経理が月次で集計するときは正しい数字が出ていたのですが、その時点ではもう次月の動きが始まっていて、振り返って判断する余裕がありませんでした。
これは私の例ですが、代理店のディレクターの方なら、似た話を一つや二つは持っているはずです。「案件は回っている」と「数字は把握できている」を同じ意味で使っているうちは、月末の数字は毎月必ずどこかでズレます。
代理店の案件管理が壊れる4つの構造
なぜこんなことが起きるのか、構造を分解してみます。
まず大きいのが、媒体・制作・外注がそれぞれ別の人と別のツールで走っていることです。媒体運用は専門性が高くて媒体プラットフォーム側のレポートで動きますし、制作はクリエイティブのデータと校正のやりとりで動きますし、外注先とのやりとりはメールかチャットで動きます。それぞれが最適化されている結果、案件全体を一気通貫で見る人がディレクターしかいない、という構造が出来上がります。
これに重なるのが、請求のタイミングが媒体と制作で構造的にズレる問題です。媒体費は出稿後に請求が立つので翌月、制作費はマイルストーン納品ごとに請求するので随時、運用フィーは月次で固定額、というふうに、同じ案件の中でも請求サイクルが3種類くらい並行で走ります。経理に上がった時点で初めて「合計でいくら」が見えるので、ディレクターが粗利を即座に判断する材料がありません。
その結果として、案件横断の収支が経理に上がってからしか見えなくなります。ディレクターは自分の担当案件の進行は見えていますが、自分の担当案件群全体で今月いくらの粗利が見込めるか、来月の請求見込みがどれくらいの確度で立っているかは、ほとんどの代理店で月次締めまで見えません。
そして、これが一番痛いのですが、案件全体の進捗がディレクターの頭の中にしか無い状態が常態化します。ディレクターが体調を崩したり退職したりすると、案件は文字通り見えなくなります。引き継ぎ資料を作っても、媒体・制作・外注・請求のどこにどう情報が散っているかを完全に書き出すのは現実的に無理です。私の知り合いの代理店では、エースディレクターが急に退職した翌月、案件単位の粗利が3割落ちました。情報が個人に張り付いていたコストが、退職と同時に顕在化したわけです。
この4つは、どれか一つだけ解決しても全体は良くなりません。「案件を主語にして束ねる」という発想を入れないと、何度ツールを足しても情報が増えるばかりです。
代理店ツールの3つのカテゴリーを整理する
代理店向けのツールを調べると、大きく3つのカテゴリーに分かれます。それぞれの得意領域と、中小代理店にとっての過不足を率直に書きます。
一つ目は、ERP系の代理店特化ツール。代表格はZAC(オロ)、それからAdFlowです。これらは案件ごとに売上・媒体費・外注費・労務費を紐づけて、月次を待たずに粗利が出る状態を作れます。ZACは2026年5月にAI日報補完機能が正式リリースされる予定で、ERP系も日報やレポート系のAI化を一段進めてきています。
率直に書くと、これらは「ちゃんとした」ツールです。50名規模を超えてくる代理店、上場準備をしている代理店、複数事業部を抱えている代理店にとっては、ERP級の重さに見合うリターンがあります。一方で、5〜30名規模の代理店にとっては、導入コストと運用コストが現場の体力を上回ることが多いです。私の周りでも、ZACの見積もりを取って一度諦めた代理店をいくつも見ました。
二つ目は、案件管理+CRM系のツール。eセールスマネージャーやCoPASSのような、営業の案件パイプライン管理から契約・パートナー報酬管理までをカバーするツール群です。代理店の中でも特に「販売代理店」的な業態(手数料ビジネスが中心の会社)には強くフィットします。
ただ、広告代理店のように案件単位で制作物が動き、媒体が動き、運用が動く業態だと、案件管理+CRMだけでは制作と運用の進行管理がほぼ確実に別ツールに割れます。私が以前関わったある代理店では、SalesforceとCoPASSで営業と契約は綺麗に回るようになったのに、制作進行はBacklog、デザイン校正はAUN、外注先とのやりとりはChatworkで残ってしまい、ディレクターが結局5つのタブを行き来する羽目になっていました。最初の「ツールが分散する問題」に戻ってしまったわけです。
三つ目は、汎用プロジェクト管理ツール。Asana、Backlog、Notion、Trello、ClickUp、monday.com など、業種を問わずに使える定番ツールです。AsanaにはAsana Intelligence、NotionにはNotion AI、monday.comにはmonday AIといった具合に、AI機能も各社が打ち出してきています。
汎用ツールは柔軟性が高くてカスタマイズの自由度がありますが、代理店の「媒体費・制作費・労務費を案件単位で束ねる」という要件には、そのままでは届きません。請求機能やパートナー管理を別ツールで補う必要があり、結局Zapierや手動の転記でつなぐことになります。私の前職でもAsanaを案件管理の中心に置いていましたが、媒体費の集計はスプレッドシートを別で運用していて、月末にスプレッドシートのほうが落ちるとAsana側のステータスと数字が乖離する、という事故が定期的に起きていました。
私が現場感覚で言うと、中小規模の代理店にとっては「ERPは重すぎる、汎用ツールは軽すぎる、案件管理+CRMは制作が抜ける」の三方塞がりに近い状況がずっと続いていた印象です。
ERP導入の前にできる「案件主語化」の設計
じゃあどうすればいいのか。ERPを買えるならそれが正解、というのが従来の答えでしたが、私はもう少し手前で打てる手があると思っています。それが「案件主語化」の設計です。
具体的にはこういうことです。
最初にやるのは、社内のあらゆる情報の最小単位を「案件ID」に揃えること。媒体費のスプレッドシートも、制作タスクも、外注発注書も、請求書ファイルも、すべて案件IDを必ず持つ。これだけで、月末の集計が驚くほど楽になります。逆に言うと、案件IDが付いていない情報を社内に許容している間は、何を導入しても集計は遅れます。
ここからが本題で、ダッシュボードの主役を「タスク」ではなく「案件」に組み替えます。汎用プロジェクト管理ツールのデフォルトは、たいていタスク一覧か個人の作業ビューが中心です。これは個人の作業効率には効きますが、案件単位で粗利を見たいディレクターにとっては使いにくい構造です。案件をカードや行の単位として、その下に媒体・制作・外注・請求のサブ情報がぶら下がる構造に組み替える必要があります。
外注先の扱いも変えます。パートナー(外注先)を案件に紐付ける、というシンプルな話です。外注先を独立した連絡先リストとしてだけ管理していると、「この外注先に今月いくら発注したか」「この案件のどの作業を誰に出したか」が後から追えなくなります。パートナーを案件と紐付けると、外注費も自然と案件単位で集計できるようになります。
もう一つ、地味ですが効くのが請求書ファイルの置き場所です。経理ツールの中に請求書PDFが入っていても、案件側からそのファイルが見えないと、ディレクターは結局経理に問い合わせることになります。案件ページから請求書ファイルがそのまま見られる状態を作ると、ディレクターが自分で粗利を概算できるようになります。
この4つを、いま使っているツールの上で工夫してやるだけでも、月末の景色は変わります。ツールを乗り換える前に、まず情報の最小単位を案件IDに揃える運用ルールから始めるのを、私はかなり強くお勧めします。
AIをどう使うか、どこに任せると痛い目を見るか
代理店業務にAIを入れる話も避けて通れません。これは私自身が現場で試行錯誤している領域なので、できるだけ正直に書きます。
AIに任せて効果が出やすいのは、議事録のテキスト化と要約、そこからのタスク抽出、案件の遅延予兆検知、それから定型レポートの下書きです。たとえばクライアント定例の議事録を音声から起こして、その中から「次回までにやること」をタスクとして自動的に切り出すフローは、Notta・tldv・LOGLIKEの「AIと会議」など各社が出してきていて、もう普通に動きます。これは正直、入れない理由がないレベルです。
一方で、AIに任せると痛い目を見るシーンも明確にあります。
媒体運用の判断は、まだAIに丸投げできません。Google広告やMeta広告の自動入札AIは十分賢くなりましたが、「予算をどこに寄せるか」「クライアントの今期の戦略上、どのKPIを優先するか」の判断は、コンテキストを共有した人間にしかできません。AIが出す提案を鵜呑みにして、後でクライアントから「うちの戦略と違う動きをしている」と指摘された話を、私は何度か聞きました。
それから、最終的な数字の責任もAIには取れません。AIが集計した粗利の数字を、ディレクターが見ないままクライアントに共有してしまって、後でズレが発覚するパターンは構造的に発生します。AIは集計の補助はしてくれますが、数字を出す前に人間が一度見るプロセスを省略してはいけません。
代理店のディレクターとしては、AIは「自分が判断するための材料を3倍速で集めてくれる助手」くらいの位置づけが、いまのところ現実的です。
LOGLIKEで代理店の案件を束ねる運用例
ここで少しだけLOGLIKEの話を書きます。私自身、LOGLIKEを使って代理店の案件管理がどう変わるかを試してきたので、その実感ベースで書きます。
LOGLIKEは「案件も、校正も、請求も。すべてが一つに!」をコンセプトにしたプロジェクト管理ツールです。代理店業務に当てはめると、案件管理を主軸にして、その下に媒体担当のタスク、制作担当のタスク、外注先(パートナー)への発注、そして請求書ファイルがぶら下がる構造を作れます。
具体的に効くのは、パートナー機能です。外注先のデザイナーや動画クリエイター、運用代行などを案件に紐付けて招待できるので、外部とのやりとりが案件の中に残ります。Slackや個別メールで散らばっていた外注とのコミュニケーションが案件ページに集約されるだけで、引き継ぎの難易度が一段下がります。
請求書管理については、誤解されやすいので明記しておきます。LOGLIKEの請求書管理は「請求書を発行する」機能ではなく、「完了した課題に紐づく請求書ファイルを案件配下で管理する」機能です。請求書の作成は別ツール(freeeやマネーフォワードなど)で行い、出来上がったPDFをLOGLIKEの案件にぶら下げるイメージです。これによって、ディレクターが案件ページから「この案件、いくらの請求が立ったか」を即座に確認できるようになります。
AI機能群も代理店業務に刺さるものがあります。AIと会議はクライアント定例や社内進捗会議の議事録から自動でタスクを起こせますし、AI課題生成は要件メモから案件に紐づくタスクツリーを起こせます。AI予告通知は締切前のリマインドや、進捗が滞っている案件の予兆を拾ってくれます。代理店のディレクターが複数案件を同時に回しているとき、この3つが地味にじわじわ効きます。
それから、ガントチャートを外部共有できるのは、代理店のクライアント対応で意外と効きます。媒体出稿スケジュールと制作スケジュールをガントで一枚に並べて、URLでクライアントに共有しておくと、「いつまでにクリエイティブを確定する必要があるか」がクライアント側にも自然と伝わります。媒体担当が制作の遅延を毎回口頭で説明するコストがなくなります。
正直、LOGLIKEはまだ代理店業務に100%最適化されたツールではありません。媒体プラットフォームとの直接連携や、運用レポートの自動取込のような代理店特化機能は、ZACやAdFlowのほうが充実しています。ただ、5〜50名規模で「ERPまでは要らないが、案件をちゃんと束ねたい」というニーズに対しては、いまのところかなり実用的な選択肢です。
まとめ:ERPの前に、案件を主語にする運用を整える
代理店の案件管理で起きている問題は、ツールの問題ではなく構造の問題です。媒体・制作・外注・請求がそれぞれ独立して動いているうちは、何を入れても集計は遅れますし、ディレクターの頭の中にしか全体像がない状態は変わりません。
最初に手をつけるべきは、情報の最小単位を案件IDに揃えることです。そのあとでダッシュボードを案件主語に組み替え、パートナーと請求書ファイルを案件に紐付ける。ここまで運用ルールが回ってから、ERPを入れるか、汎用プロジェクト管理ツールにカスタムを足すか、LOGLIKEのような統合型を試すかを判断する——この順番が、いちばんコストパフォーマンスが良いと感じています。
ツールを入れること自体が目的化した会社は、半年後にスプレッドシートがまた一枚増えています。私自身、代理店で何度かそれを経験しました。
