ツール5個以上使ってない? 中小企業の「SaaS疲れ」を解消する業務一元化のステップ

朝、出社して最初にやることが「Slackを開いて、Notionを開いて、freeeを開いて、Salesforceを開いて、Trelloを開く」。気がつけば10分でブラウザのタブが20個に膨らんでいて、午前中はその間を行き来するだけで終わる——。 ここ数年、こうした「SaaS疲れ」の声を本当によく聞きます。便利だから入れたツールが積み重なった結果、業務がラクになるどころか、むしろ煩雑になっている。この記事では、なぜそうなるのかを整理した上で、ツールを減らすのではなく業務を「軸」で束ね直すという考え方をお伝えします。最後まで読めば、自社のSaaSを棚卸しして整理する具体的な手順が見えてくるはずです。

ツール5個以上使ってない? 中小企業の「SaaS疲れ」を解消する業務一元化のステップ

「DXしたのに忙しくなった」という逆説

DXを進めようと思って業務効率化ツールを導入した。会計はクラウド会計、営業はSFA、社内コミュニケーションはチャット、ファイル共有はクラウドストレージ、タスク管理はカンバンツール。一つひとつは便利です。

ところが、3年経ってみると現場からはこんな声が出てきます。

「申請を出すのに3つのツールを行き来する」「どのツールに何があるか覚えきれない」「同じ顧客情報を3箇所に入力している」「請求書の元データを作るために、案件管理ツールから手で写している」。

これがいわゆるSaaS疲れの典型です。スマートキャンプが2022年に行った調査では、11個以上のSaaSを導入している企業が2020年比で32.7%増えたと報告されています(スマートキャンプ/メタップスホールディングス)。10個を超えるツールを管理しながら業務を回す、というのは、ちょっと考えるだけで疲れる話です。

ツールを入れた瞬間は「これで効率化される」と感じます。でも、ツールが増えるほど「ツール間の谷間」が広がっていきます。あるツールで完結しない業務は、人間が手で別のツールに転記したり、画面を切り替えてコピペしたりして埋めることになる。OKIのコラムでも、デジタルツールを入れたのに業務設計が追いつかないまま「ツールの間を埋める作業」を現場が背負わされる構図が、DX疲れの典型として紹介されています(OKI Style Square)。

正直なところ、ツールが多いこと自体は悪ではありません。問題は、ツール同士の関係が整理されていないまま増えていく状態です。


まずやるべきは「ツールを減らす」ではなく「棚卸し」

SaaS疲れの話をすると、「じゃあツールを減らそう」という結論にジャンプしたくなります。その気持ちはわかりますが、減らすのは手順としては最後のほうです。最初にやるのは棚卸しです。

棚卸しといっても大げさなものは要りません。スプレッドシートを1枚開いて、次の項目を埋めていくだけです。

  • ツール名
  • 月額料金(人数が増えると変わる場合は1人あたり)
  • 主な利用目的(誰が、何のために使っているか)
  • そこで管理している情報の種類(顧客情報、案件、タスク、請求、ファイルなど)
  • 利用部署
  • 解約したときに困る業務

これを30分かけて埋めるだけで、けっこう驚きます。「あれ、顧客情報って4つのツールに入ってない?」「このツール、月3万円払ってるけど、実は2人しか使ってない」。こうした発見が必ず1つや2つは出てきます。

いきなり「新しいツールを探す」に走る前に、今あるものを把握し直すだけで、やるべきことの半分は見えてきます。棚卸し自体はコストゼロ、かかるのは30分の時間だけ。これをやらずに次のツールを選ぶのは、地図を見ずに山に登るようなものです。

棚卸しが終わったら、特に重複している領域を1つマークします。多くの会社で重複しがちなのは、顧客情報・案件情報・タスク情報の3つです。この3つはどの業務にも絡んでくるため、入る場所がバラバラだと転記コストが雪だるま式に増えます。


一元化のアプローチは大きく3つに分かれる

棚卸しが終わって「重複している」「分散している」が見えたとき、次に考えるのが一元化のアプローチです。やり方は大きく3つに分かれます。

アプローチA:ハブツール型——多機能ツールに寄せる

Notionのように、ドキュメント・データベース・タスク・Wikiを一つで担えるツールに業務を集約していくやり方です。

メリットは、ツール数を物理的に減らせること。ライセンスコストもログインの手間も下がります。Notionなら現在、ビジネスプランが1ユーザー月額3,150円(年払い)でAI機能込み(Notion 公式)。10人で使っても月3万円少々で、Wikiから簡易タスク管理までカバーできます。

ただし注意点もあります。Notionは「自由に作れる」ツールなので、運用ルールを決めずに使い始めると、ページが乱立してかえって情報が見つからなくなります。「Notionで全部やってます」と言いながら、結局Slackで「あれってどこのページにある?」と聞き合っている会社、けっこう見かけます。

ハブツール型の成否は、ほぼ「誰が情報設計の役割を持つか」で決まります。社内に設計役を1人立てられる会社にはハマる選択肢、立てられない会社には向かないアプローチです。

アプローチB:連携型——既存ツールをZapierでつなぐ

今使っているツールを残したまま、Zapier・Make・n8nなどの連携サービスでツール同士を自動でつなぐやり方です。

「Salesforceで商談がClosed Wonになったら、Slackに通知して、freeeに請求書ドラフトを作る」のようなフローを、コードを書かずに組めます。Zapierは現在5,000以上のサービスと連携できる規模になっており、Professionalプランは月29.99ドル(Zapier 公式)。1人分のSaaSライセンス並みで業務全体の自動化が組めます。

連携型のいいところは、現場が慣れた既存ツールを変えずに済むこと。導入時の混乱が小さい。一方で、連携Zapが増えていくと、それ自体が新たな保守対象になります。「設定した人が辞めたら、どこで何が動いているのか誰もわからない」という、別種の負債が生まれがちです。

連携型は導入の初速は出ます。ただし運用担当者を決めて設定一覧をドキュメントに残しておかないと、半年後に「誰も触れない自動化」が積み重なって、気づいたら別の負債になります。

アプローチC:業務特化型——業界・業態に合わせたオールインワンを選ぶ

最後が、業界や業態に合わせて設計された専用ツールに乗り換えるアプローチです。製造業ならkintone+業界向けプラグイン、士業向け会計事務所ならMFクラウドの会計事務所版、建設業界なら現場管理特化のSaaS、というふうに、業務の起点になっている軸に最適化されたツールに寄せていきます。

業務特化型のメリットは、業界の標準的な業務フローがツール側に組み込まれていて、設計の負担が小さいことです。入れた翌日から運用を開始できるので、社内に設計役を立てる余裕がない会社には素直な選択になります。

ただしハマらない会社もあります。業務フローが業界標準から大きくズレている場合、ツール側の制約に合わせるのはむしろ窮屈に感じるはずです。標準フローと自社運用のギャップがどれくらいあるのか、トライアルで必ず確認してから決めてください。


制作業務なら「案件軸」で一元化するのが自然

ここからは、特にWeb制作・広告制作・デザイン事務所のような「制作業」のケースに絞って話します。

制作業の業務フローには、明確な軸があります。それが「案件」です。

案件を起点に、タスクが発生し、デザインの校正が走り、請求書が発行され、顧客との関係が積み上がっていく。つまり、案件の中に他のすべてが含まれる構造になっています。これが営業会社や小売業との大きな違いです。

ところが、制作会社の現場でよく見るのが、この案件軸が分断されている状態です。タスクはBacklog、校正はAUN、請求書はfreee、顧客情報はSalesforceかGoogleスプレッドシート。それぞれは便利ですが、「案件Xの今の状況を見たい」と思った瞬間に、4つのツールを開いて頭の中で組み立て直すことになります。

これは中小企業のSaaS疲れの中でも、かなり重症のパターンです。なぜなら、業務の起点である「案件」が、どのツールにもまとまっていないからです。

棚卸しのときに紹介した重複領域——顧客情報・案件情報・タスク情報の3つ——のうち、制作会社では特に「案件情報」を軸に置いて一元化を考えるのが自然です。案件さえ一箇所にあれば、それに紐づく形でタスクも校正も請求も整理されていきます。

制作業向けの一元化ツールという選択肢

業務特化型の選択肢として、制作業向けに設計されたツールがいくつかあります。中でもLOGLIKEは「案件・校正・請求」を一つのツールにまとめたコンセプトで、Web制作会社・デザイン事務所・広告代理店を主なターゲットにしています。

実装されている機能を、案件軸の流れに沿って並べるとこうなります。

注意点を一つ挙げておくと、LOGLIKEの請求書管理は会計ソフトのような「請求書を発行する」機能ではありません。完了した課題に紐づく請求書ファイル(freeeやマネーフォワードで作ったPDFなど)を案件と一緒に保管する機能です。請求書発行そのものは引き続き会計ソフト側で行う想定なので、freeeやマネーフォワードを置き換えるツールではない、という点は誤解しないでおいたほうがいいです。

ハブツール型で設計に時間を使えない、連携型で保守する人を置けない、けれど案件単位で散らばった情報を一つにまとめたい——という制作会社にとって、業務特化型は素直な選択肢になります。


一元化を進める前に確認しておきたいこと

最後に、一元化に踏み切る前にチェックしてほしいポイントを2つだけ。

1. 「全員が同じツールを使う」ことの心理的コストを軽く見ない

新しいツールを導入すると、必ず一定数の反発が出ます。「前のツールで慣れていたのに」「使いにくい」「覚えるのが面倒」。これは多かれ少なかれ起きるものです。

このときに効くのが、棚卸しのデータです。「今、ツールが7個あって、月のライセンス料が28万円。重複入力で月50時間使っている。これを一元化すれば、月15万円浮いて、入力時間も1/3になる」。こういう数字があると、反発は抑えやすくなります。感情論ではなく、業務の数字で語ること。

2. 既存データの移行コストを甘く見ない

ツールを乗り換える場合、過去案件のデータをどう移すかが意外に重い仕事になります。CSVでエクスポートして手で整形してインポート、というのは、案件数が数百を超えると地獄です。

新しいツールがCSV一括インポートに対応しているか、過去案件をどこまで持っていくか(直近1年だけ移して、それ以前は旧ツールを参照用に残す、という割り切りもアリ)を、契約前に決めておきます。


まとめ

SaaS疲れの解消は「ツールを減らすこと」ではなく「業務を軸で束ね直すこと」だ、というのがこの記事で言いたかったことです。

具体的には、棚卸しで現状を見える化し、重複領域を特定し、自社の業務の起点になっている「軸」を決めて、その軸に合った一元化アプローチを選ぶ、という流れになります。制作業なら案件軸、営業中心なら顧客軸、製造業なら工程軸——軸の選び方は業種で変わります。

一元化は短期では混乱を生みますが、半年経つと「なぜ前は5つもツールを開いていたんだろう」という景色になります。まずはスプレッドシート1枚での棚卸しから、始めてみてください。

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